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放課後、夕鶴は酷く冷たい表情をしていた。その目の前には保健室で寝ているはずだった光輝の姿がある。
「何しにきたんですか?」
自分の冷たい眼差しと声に、彼は完全に怯んでいるらしい。何も言わない彼にため息をついて回りを見回した。
誰もいない教室に自分達はいた。目の前にいる彼に呼び出されて。恢と眞智は学校近くの喫茶店で待ってくれている。
「大野先輩」
そう呟いてみても、光輝は中々話し出そうとしない。それによってますます苛々が溜まる。
それが彼の勇気を削っているという事に、残念ながら自分は全く気付いていない。
「……あの」
やっと小さな声で呟いて顔を上げる光輝。彼を見て、夕鶴は安心させるように小さく笑う。
それにほっと安心したような笑顔を浮かべて、再び深く頭を下げる。
「ごめん、夕鶴ちゃん」
「へ?」
その謝罪に驚く。また前のように付き纏う気かと思っていたから。まさか謝罪をしてくるなんて思わなかった。
「……あ、えっと」
その為、全く謝罪に対する返答を返せなかった自分は言葉に詰まる。
「ごめん、傷付けて」
「いいんです、気にしてませんから」
頭を下げている光輝を見ながら小さく呟く。許されるとは思っていなかったのか。不安そうに自分を眺めている。
「怒ってませんよ。憑かれるという事は仕方ない事です。徒人に逆らう術なんかありませんから」
それは自分もよく知っている。大切なのはその後の事だという事も、よく分かっていた。
うつむいたまま何も言わない光輝。こんなに落ち込んでいるのなら、そっとしておいた方がいいかもしれない。
声をかけても無駄だろうし、恢達も待たせている。仕方ないのでこのまま教室を離れる事にした。
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