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無表情の下に感情を隠すのは得意だ。前からそうやって本心を隠してきた。
どれだけ覗き込んできても、今の夕鶴の瞳は凍えるくらい冷たい眼差しをしているだろう。
「それじゃあ、私はこれで」
これ以上ここにいても意味がない。向けられるのは懇願と探るような眼差ししかないから。
恢も眞智も何も言わない。それを分かっている自分は何も言わずにこの場から去っていった。
――――――――――――――
残った恢は途方に暮れる。夕鶴はもうここにいないし、いつも元気に笑っている眞智はうなだれている。
理由くらい考えなくても分かるから、下手に慰める事は出来ない。流石に困ってしまった。
「眞智、気にするな。あれだけ強く言ってても、姫はお前を心配してる」
「分かってます。分かってますけど」
やはり面と向かって言われる事ほど辛い事はない。恢だってきっと正面から言われたら傷付く。
俯いたまま何も言わなくなった眞智。泣きそうなのか肩が小刻みに揺れている。
「……確かにお前は力がない。でも、姫を支える事くらいなら出来るだろ」
「あの子は、絶対に人に頼らない」
異端と言われ虐げられていた中学の時でさえ、夕鶴は誰かに縋り付いた事はなかったと。
ただ毅然とした態度で、なにも変わる事なく過ごしていたらしい。それはそれで夕鶴らしい態度だ。
「そうか。でも俺から見たら、姫は十分お前を頼ってると思う」
あんなに冷たい態度をとれるのは、それでも眞智が離れていかないと信じてるからではないか。
「……そうだといいけど」
泣くのを我慢しているような弱々しい笑顔を作り上げた眞智は、荷物を纏めて立ち上がる。
そしてこちらを見下ろすと、一瞬だけ瞳を細めて再び微笑んだ。今度は完璧な笑顔で。
「先輩、今日の夜に祓いに行くんですよね。頑張って下さい」
言いたい事を言うと返事を聞く事なく去っていく。一人残された恢は、深い深いため息をついてしまった。
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