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家に帰ってから、玄関の扉に背をつけたまま座り込んで深いため息を付く。これでよかったはずなのに。
眞智の傷付いた表情が痛かった。言った時は迷いなんてなかったのに、今はこんなにも心が痛くなる。
「……これでいいの」
そう、これでいい。これから眞智が霊関連に関わらなければ覚醒はなくなるはずだ。
そうなればいいと切に願う。霊力者という存在がどれだけ辛いか、夕鶴は知っている。
人と違う存在になれば苦しい思いをするだけ。眞智を自分と同じ道に引きずり落とす事だけは絶対にしたくなかった。
彼女にしたら迷惑なのかもしれない。これは夕鶴のただの自己満足なだけかもしれない。
それでもよかった。そうする事で、少なくとも眞智が酷い言葉をかけられて傷付く事がなくなる。
「叉玖」
肩から顔を覗き込んでくる叉玖の頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細めて擦り寄ってきた。
肩や擦り寄られた頬から感じる温かい彼の体温に触れているだけで、不思議と心が安らぐ。
「貴方が側にいてよかった」
『ミゥ』
夕鶴一人だけだったら、今頃は罪悪感に押し潰されていただろう。しかしまだ夕鶴には叉玖がいる。一生側にいてくれる、守護獣がついている。
「叉玖、準備しましょう」
制服のままベットに寝転がっていたが、ゆっくりと起き上がる。そのまま外を眺めた。
今は夕方だ。もう少ししたら完全に夜になる。その前に自分一人で付喪神を倒す。
『キィ!』
叉玖が反対するように鳴いているが止める気はない。いつか一人で戦わなければならない時は来るはずだ。そんな時、誰かに頼る事がないように。
今のままでは確実に頼ってしまう。彼の存在に頼らなくてもいいように、一人で付喪神を倒す。
「大丈夫よ叉玖。安心して」
自分は負けない。笑顔を見せるのに相変わらず叉玖は心配そうにこちらを見ているだけ。
分かっている。この小さな獣は夕鶴の守護獣なのだから、一人で戦わせたくないと思うのは当たり前の事。
しかしそれでも戦わなくてはならない。いつか恢がいなくなってもいいように、自分一人の力で。
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