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薄暗い校舎には、夕鶴の歩く靴音以外何も聞こえない。その静けさが不気味だ。ホラーが苦手な人なら確実に逃げ出すだろう。 夕鶴はホラーのような作り話は全く怖くない。それにこういう経験は結構多いので大丈夫なのだが。 「静かね」 『クゥ』 流石に夕鶴でもこの状態は異常だと思う。生徒会棟のすぐ側で部活をしているのに声が聞こえない。 すぐに理解した。今回の敵はとても厄介なのだという事と、自分は嵌められたという事に。 「……異界か」 再び連れ去られてしまったのか。気付くと同時に異界独特の湿った空気が流れる。 そして鼻を擽る、湿った鉄臭い香り。それと混じるような腥臭に夕鶴は顔をしかめた。 「いつ来ても臭いわ」 神隠しなど、世界では方法が分からない失踪事件がよくある。あれのほとんどはこの異界に連れて来られていると知っている。 そして連れて来られた人間は生きていない事も、知っていた。だから異界にはいつも血の臭いの混じった風が吹く。 気が重い。異界で戦うとなれば恢の助けは絶対に来ない。頼るつもりはないのに、やはり心のどこかで助けを求めてしまっていた。 重くなる足を必死で動かしながらため息を付く。行きたくないと初めて思った。こんな面倒な敵なんて、放っておきたいと。 でもそんな事を出来る訳がない。これ以上放っておくと、いつか自分の大切な人にまで被害が行くだろうから。 「仕方ないか」 また深いため息をついてからゆっくりと立ち止まる。 視線の先にある扉。それにかけてあるプレートには、生徒会室の文字が刻まれていた。 見付けた。目を細めてそれを見た後、夕鶴はそっと音を立てないように扉を開けた。
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