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その部屋は耳が痛くなるような無音だった。入って来た夕鶴の靴音さえもそこには響かない。 奥の部屋から隠そうにも隠れないような強い霊気が溢れている。知らない間に夕鶴は唾を飲み込んでいた。 やはり今回の相手は今までと違うのだと思う。 『怖い』 久々に感じたその感情に、夕鶴の体が動かなくなる。この力は凄い。こんなに強い負の力を持つものなんてあまり会う事がない。 しかし怖いという感情に混じってもう一つの感情が沸き上がってくる。戦ってみたい。そして勝ってみたいという思いだ。 こんなに強い力を持つ妖怪に自分の力がどこまで通じるのか、勝てるのか。それを試してみたい。 「叉玖、行こう」 迷いのない歩みを見た叉玖も自分の後を着いてくる。大丈夫。絶対に勝てる。叉玖と二人でいれば、何にだって勝てる。 奥に続いている扉に近寄ると、夕鶴を脅すように気配が濃くなる。しかし恐怖はとっくに戦いたいという思いに打ち消されていた。 「絶対に祓ってあげるわ」 『キィ!』 叉玖もその言葉に返事を返してくれた。自分は彼に微笑むと、奥へ続く扉を思いきり開く。 大きな音がして扉が開いたと同時に、その部屋の中から何かの呻くような声が聞こえる。 『アァアァァアア!』 部屋を見回し、その呻き声を発しているのが鏡だと気付いた。空中に浮いているそれは、暗い紫のオーラのようなものを発している。 探す手間が省けた。何より、あれ程強い力を垂れ流していたらすぐに見つけられるだろうが。 「貴方が付喪神ね」 『……イ、いかニも。我ガ、付喪神!』 片言混じりの言葉を聞くと、あれはもう自分の荒ぶる力を押さえ込めないのだろう。 その紫のオーラがゆっくりと集まり、大量の触手へと変わっていくのをただ見ていた。
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