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『苦しイ、苦シい。何故、我ハこンナ姿にナッテイル!』 風を切って触手が夕鶴に向かってくる。この狭い部屋では満足に戦う事さえ出来ないだろうに。 現に向かって来る触手は物にぶつかり、途中で切れたり減速したりしていた。それでも辛うじてこちらに来たものは全て、叉玖が切り落とす。 『グアァア!!』 鏡が咆哮する。その瞬間、回りの空気がぐにゃりと歪んだ気がして目を見開く。 「なっ!?」 気持ち悪い感覚に吐き気がした。異界は変形する事があるとは聞いたが、実際に体験したのは初めてなのである。 歪みが直った時、夕鶴はがらんとした無駄に広い教室に立っていた。回りに物はない。それに生徒会室より広い。これなら十分戦える。 時間的には夜のはずなのに、その場所は落ちる事のない夕日で真っ赤に照らされていた。 『あァ、殺シタイ』 「呑まれたのかしら」 自分の強すぎる負の力に付喪神自身が呑まれてしまったらしい。神と名の付くものが聞いて呆れる。それ程までに自我が弱いなど。 今の目の前にいるものは付喪神とは呼べない。自らの負に呑まれた、付喪神の成れの果て。下にいた成れの果てとどこも変わりない。 「憐れな神よ。これ以上お前をこの場に居させる訳にはいかない」 『人ニ、我ノ悲シミヲ!』 同じ思いを人にもぶつけたいと言う事か。本気で憐れになってきた。 必要とされて人に作られた鏡。それなのに持ち主は扱いが酷くて、最終的には必要ないと捨てられた鏡。その鏡の怨念がこの付喪神なのか。 「可哀相ね」 人の自分勝手な行いで傷付いた鏡。生みの親に捨てられた気持ちは分からないが、どんな理由があっても悪霊に成り下がる事はよしとしない。許してやる事なんかしたくなかった。
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