149人が本棚に入れています
本棚に追加
「行くわよ、叉玖!」
『キ!』
夕鶴が叉玖に手を向ける。その掌から霊力が真っ直ぐ彼に向かっていく。霊力を炎に変え、一瞬で叉玖の小柄な体は巨大な狐の姿に変わった。
いつも戦いの時はこの姿にしている。彼は霊力を与えれば与える程強くなるのだ。
叉玖が駆け出す。その彼目掛けて一斉に襲い掛かってくる触手は全て、夕鶴の霊力の刃によって切り落とされる。
「悪いけど、叉玖の邪魔はさせない」
本来なら自分が向かっていくのだが、今は叉玖が頑張ってくれているので補助に回る。
触手を炎が焼き、もう少しで本体にたどり着くという時。付喪神の凄まじい負の力が込められた塊がぶつかった。
犬のように甲高い声を上げ、彼の体が高く放り出された。それを見て慌てる。
「叉玖!〈止まれ〉!!」
地面にたたき付けられる瞬間、何とか言魂で助けられた。そのまま叉玖は体制を立て直す。まだ戦えるという事なのだろう。
視線を向けられたので、仕方なく頷く。少し休ませたかったがこれで自分一人は少し厳しいかもしれない。
「叉玖、少し我慢ね」
『ミィ』
大丈夫。自分はまだまだ戦える。叉玖の思いが夕鶴の中に流れ込む。符を片手に自分は笑う。叉玖がこれほど頼もしい子だったなんて知らなかった。
「一緒にがんばろうね。〈守れ〉」
向かってくる触手を言魂で作り上げた障壁で弾きながら符を投げる。
真っ直ぐ向かっていく符が本体にぶつかる前に、触手が搦め捕った。それでも慌てない。符が近くにあれば変わらないから。
「破」
呟いた言葉に反応し、符から霊力が溢れ出す。触手がボロボロと崩れ落ち、鏡本体にも少し傷が出来る。
『ガアァ!』
怒り狂った咆哮が響く。夕鶴が再び符を手にするより早く、触手の一本が自分にぶつかった。
最初のコメントを投稿しよう!