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澄んだ音を立てて、付喪神が宿っている鏡が砕けた。
『ガアァァア!!』
付喪神の叫び声が響く。苦しみと怒りを混ぜ合わせたような、悲しい叫びが。
鏡のあった場所には、今や黒い靄の塊のようなものしか存在していない。
「あれが付喪神?」
本体というのか、宿るべきものが消えてしまった神には実体などないのだ。
あれを祓えばもう終了。ここまでいけばもう、あれには抵抗する力がない。
「〈常世に帰りなさい〉」
夕鶴がそう優しく言うと、付喪神の姿がゆっくりと溶けるように消えていく。
前の鬼の時と祓い方が全く違う。恢と眞智の視線を感じるが、自分は付喪神が消えるまで見送った。
神が消えると同時に、いつの間にか自分達はあの生徒会室に立っていた。戻ってきたらしい。
「姫」
「あれはそこまで悪いとは思えないの。悪いのは捨てた人間だわ」
そうだ、今思えば全てが悪い訳ではなく。霊の方にも被害者がいるかもしれない。
人間である自分達だけが被害者じゃない。もしかしたら今まで祓ってきた中にも、人間に傷付けられたのがいるかもしれないのだ。
「霊に同情するのは止めとけ。1番危険だ」
「分かってます」
同情する気はない。ただ、せめて苦しまないように常世に帰したかった。
恢はため息を付くだけで何も言わない。よく見れば、彼は傷だらけで。その横にいる叉玖も同じく。それほど必死だったのか。
「ありがとう、二人とも」
「あぁ」
『クゥ』
「……眞智もね。来てくれて嬉しかった」
夕鶴の言葉に、眞智は目を見開いていた。自分がそんな事を言うと思っていなかったらしい。
彼女に柔らかい笑顔を向けると、眞智もすぐに笑みを返してくれた。
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