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「……今までで、今のが1番効いたよ」
キスを拒まれたからか、光輝の顔は酷く弱々しい。当たり前だ。拒まれた上に嫌だと言われたのだから。
真っ赤な顔で光輝を睨む自分を見て、その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
流石に、あの行動には困ってしまった。まさかキスをされるなんて。しかも眞智と恢の目の前で。恥ずかしすぎる。
「私、帰ります」
ここに居るのがとても恥ずかしい。夕鶴はそう言うとすぐに走り出した。
――――――――――――――
真っ赤な顔で走り去った彼女を追い掛ける眞智を見て、立ち上がろうとした恢を光輝が呼び止めた。
「何だよ」
「俺は絶対に諦めない。お前にどう言われようと、絶対に」
強い眼差しだ。そんな事を言われても困るのだが、自分が蒔いた種でもある。
「勝手にしろ」
吐き捨てるように言うと、恢は夕鶴達を追い掛ける。後ろから呼び止める声はない。
しばらく走ると、真っ赤な顔で眞智に何か言っている夕鶴を見付けた。
自分は彼女達の側にいて、何がしたいのだろう。不意に自分に問い掛ける。
考えても無駄な事だと分かっているのに、その言葉だけが頭の中を周り続けて嫌になった。
「あ、先輩」
夕鶴がこちらに気が付いたらしい。柔らかい笑顔のまま手を振ってくる。
いつから、彼女達と居るのが当たり前になったのか。いつから自分は、夕鶴を守りたいと思うようになったのか。
血なんか関係なく、彼女を守りたいと。多分自分の中で夕鶴は大切な仲間になったから。
夕鶴は眞智よりもどこか頼りない。恢が守らなければ、手伝わなければ一人で敵も倒せないだろう。
今はまだそれでいい。自分を頼って、信頼される事が素直に嬉しいから。
「あぁ、今行く」
だから今はまだ、彼女の側に居よう。いつか自分で潰してしまう幸せだから、少しでも長く一緒に。
駆け寄ってくる恢を見ながら、夕鶴と眞智は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
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