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そうなる事が分かっていながらここにやってきたという事は、余程その頼みは大切なのだろう。
どうせ霊関係の頼み事か何かに決まっていると考えて、夕鶴はため息を付く。
仕方ない、聞くだけ聞いてみよう。咲衣に話すように言うと、彼女はますます縮こまる。
その様子を見て、つい眉間に皺を寄せてしまう。なんて面倒な人なのだろうか。
「あのですね、話すなら話す。話さないなら話さない。早く決めてもらえます?私もそんなに暇じゃないんですけど」
嘘だった。暇を持て余していたのだが、彼女にそんなに時間を割いてやる必要もない。
自分は彼女達にいらないと言われたのだ。なのに何故、今になって頼ってくる。
忘れられると思っていたのに。心の中にある深い傷を忘れようとしたばかりなのに、何故。
「……頼みって言うのは、少し預かって欲しいのがあるのです」
呪具とかだろうか。その程度にもよるが、預かるのはあまり好きじゃない。
「持ってきてください」
「あ、はい」
返事をすると慌てて部屋を後にする。一回家にまで取りに戻るらしい。
それにしても、彼女は呪いには無関係な人に見える。昔に何度か会った事はあるが、優しくていい人だった。
まぁ、あくまで昔の話だ。引き取る事を拒絶された今、いい人だとは思えないが。
「あの、連れてきました」
控えめに扉を開ける音がして、咲衣が顔を覗かせる。この時に違和感に気付いていればよかった。
彼女は『持って』来たのではなく『連れて』きたと言った事に。だが今の夕鶴は早く彼女を追い返そうという事で頭がいっぱいだった。
「どうぞ」
「ありがとうございます。ほら猛(たける)、入って」
そこでやっと夕鶴は、彼女の発する言葉の違和感に気が付いた。が、後の祭。
咲衣と共に入ってきたのは、まだ中学生くらいの少年だった。柔らかそうな黒髪は咲衣譲りだろうか。目を引くのはその美貌ではなく、彼の瞳の色だ。
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