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深い深い、深海のような綺麗な青色の瞳。それだけで分かった、彼は霊力者なのだ。
「一ヶ月だけでいいんです。猛を預かってください」
「……また、気持ち悪いからですか?」
夕鶴が瞳を細める。理由は分からないが、預かってほしいなんて言うからにはくだらない理由なのだろう。
覚醒して彼女を睨めば、その横にいる少年が息を呑む。きっと、この力を見慣れていないからだ。
「そ、んな事は」
「なら何故?私がその子を預かって何になるの?」
「貴方しか、居ないんです」
息も絶え絶えに言われた言葉を聞いて、仕方なく力の解放を止めた。強すぎる力は徒人にも影響する。夕鶴はそれを利用した。
「預かった私に利点はないわ」
「お金なら渡します。どうか!」
本人が居る前でそういう話をするなんて。自分は咲衣の横にいる猛を見るが、彼は無表情。
ため息を付く。どうせ引き受けるまで彼女は帰らないだろう。一ヶ月だけならまだマシだ。
「分かりました、引き受けましょう」
「ありがとうございます!ほら、猛も」
「……うるせぇな。触んなよ」
伸ばされた腕を振り払う。払われた手を悲しそうに見る咲衣に違和感を覚えた。
何故。彼が怖いからここに預けたはずだ。ならば何故、あんなに悲しそうな顔をするのか。
「失礼します」
咲衣は悲しそうに笑ったまま、夕鶴に向かって頭を下げる。そして視線を猛に向けると今度は優しく笑いかけた。
「夕鶴さんに迷惑のないように。必ず迎えに行くわ」
名前をしっかり覚えていた事に驚く。彼女はもう、とっくに忘れていると思っていたから。
そんな咲衣が去った後、当たり前だと思うが自分と彼との間には沈黙が訪れた。
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