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「ど、どうしたの?」 その異常な怯え様に声を掛けても、彼は怯えたまま。自分の言葉は届いていないらしい。 「嫌だ、嫌だ。連れていかれる、怖いんだよ!」 いきなり夕鶴に飛び掛かって来たかと思うと、小さい子供が怖い夢を見た時のように縋り付く。 譫言(うわごと)みたいに呟かれた言葉を聞いて分かった。彼は神隠しにあいそうになっているのだ。 だから咲衣も猛を手放した。徒人である自分には何も出来ないから。面倒な事を引き受けたとため息をついて、とりあえず彼を慰める。 「大丈夫、この家には神隠しも来ない。安心して」 事実ではある。浮遊霊はいるが、そういう強い霊だけを弾く結界はちゃんと張ってある。 ただ、神隠しが強い霊なのかと聞かれると頷けないが。彼らは寂しくて人を掠う、下級霊も上級霊もいる。 彼が何に狙われているのか分からない今、夕鶴としては下手に手出し出来ない。 「〈落ち着きなさい〉」 中々落ち着かない彼に嫌気がさして、言魂を使う。それのお陰で少し落ち着いたらしい。 そして自分に抱き着いていると気付いた瞬間、目を見開いて勢いよく突き飛ばす。 「きゃっ!?」 油断していた夕鶴は机にぶつかり、主を傷付けられた叉玖が黙っている訳もなく。勢いよく猛の腕に噛み付いた。 「うわあぁ!」 霊や妖怪を見る度に叫ぶ猛。そして彼を怯えさせていると気付かない浮遊霊。怒り狂った叉玖。 何がどうなっているのか分からない状況になってきて、それを見ていた自分はつい噴き出した。 先程まで騒がしかった者達は皆、いきなり笑い出した夕鶴に驚いて動きを止める。 「叉玖。私は大丈夫だから、おいで」 猛から離れ、自分の腕に抱かれた叉玖はご機嫌だ。それを見た浮遊霊も遊ぶ事を止め、遠巻きに彼を眺める事にしたらしい。 そして猛は、その光景が信じられないようで。目を見開いたまま夕鶴を凝視する。
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