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終いには浮遊霊達総動員で家捜しだ。彼らは自分よりもこの家の事を知っているから。
「ふぅ、あった」
夕鶴の手の中には、綺麗な緑色をした数珠がある。翡翠を使ったものだった。見つけてくれたのは、いつも居るあの浮遊霊。
「ありがとう」
にっこりと笑いかけてやると、嬉しそうにふわふわ浮いている。相変わらずこれは話さないので、もう諦めた。
猛の元まで戻ってそれを差し出すと、彼は首を傾げる。なんでこんな物を渡されるのかという表情だった。
「数珠?」
「そう。一応、強い霊でも一回は追い払ってくれる。ただし一回よ、後は持たない」
低級霊なら何回か大丈夫だが、上級霊はどうなるか分からない。だから釘を差す。そうすれば連れていかれる事はないだろう。
「ありがとう、姫崎さん!」
本当に嬉しかったのか、猛が夕鶴に抱き着いてくる。そういうのに免疫がないので、つい悲鳴をあげる。
それに驚いて離れる彼と自分の間に訪れた沈黙が痛い。当たり前だが、悲鳴を上げられたら誰だって驚く。
「えぇと、この家ではむやみに抱き着くのは禁止ね」
「……はい」
捨てられた子犬のような表情の猛に罪悪感を抱いたが、あれは譲れない。
うなだれた彼の頭に手を置いて、困ったように笑った。これからも、微妙なすれ違いは起こりそうだ。
「昼ご飯にしましょう。食べた?」
「まだ」
「じゃあ手伝って。何がいい?」
そう問い掛けると、彼は動きを止める。真剣に悩んでいるらしく、その瞳は真剣そのものだった。
「蕎麦がいい」
「蕎麦?」
予想外なものに、夕鶴はつい問い返す。蕎麦なんてあっただろうか。いや、それ以前に食材があまりない。
「買い物行こう」
いつも週末に買い物に行く為、この家は週末に入ると食材がなくなる事をすっかり忘れていた。
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