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「お待たせ、行きましょう」 夕鶴の簡単な格好と違い、猛はしっかりとお洒落をしていた。黒を中心とした落ち着いた服装。本当に中学生かと思うくらいだ。 「姫崎さん!全然待ってないです」 あの人懐っこい可愛い笑顔。服装は大人びているのに表情や仕種は歳相応のようだった。 「可愛いー」 そのギャップにやられた。冷めている割に可愛いものが大好きな夕鶴は、自然と彼を見て笑顔になる。 そのまま並んで歩いていく。お調子者タイプの猛は話し上手で、話が途切れる事がない。 だからこの散歩を楽しむ事が出来たし、自分から話し掛ける事をしなくていいから楽だ。 「どこ行くんですか?」 「近所のスーパー。いつもそこなの」 会って数時間の人物と、こんなに普通に会話が出来るなんて思わなかった。どちらかと言えば人見知りなのに。 「そういえば俺、4歳くらいの時に姫崎さんと一度会ってるんです」 急に猛がそう呟いた。夕鶴は突然の言葉に一瞬だけ目を見開いたが、すぐに微笑む。 「知ってるわ、少し覚えてるもの」 少しだが覚えてる。可愛い黒髪の男の子と遊んでた事があった。聖とは違う、自分より少し幼い少年と一緒に居た記憶がある。 「姫崎さん、たけちゃんって俺の事呼んでくれてたらしいですよ」 笑いながら猛の話を聞いていた。ころころと変わる表情は、見ているだけでも十分楽しめる。 その会話が終わって、不思議と無言になってしまった。猛も夕鶴も何も話さなくて。それでも気まずい沈黙ではない。 「猛、着いたわよ」 夕鶴が声をかけるっ、彼は慌てたように顔を上げた。当たり前だが、視線の先にはどこにでもある普通のスーパーしかない。 そんなに勢いよく顔を上げなくてもいいのにと、自分はまた小さく笑ってしまった。
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