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「もっとなんていうか、穴場みたいな場所だと思ったのに」 買い物が終わった帰り道。猛は両手にぶら下げている大量の袋を持ちながら呟いた。 今さっき寄ったスーパーの事だ。激安!とかそういうのぼりがあるところだと思っていたのに。 だから少しだけ楽しみだった。結局は自分の予想と全く違う、普通のスーパーだったのだが。 「あのね、私は別にそこまで生活には困ってないわよ」 「でも一人暮らしなんだし、そういう事してんのかなぁって」 買い物なんてほとんど行った事のない猛としては、そういう場所も少しだけ見てみたかった。 ため息混じりにやれやれと首を振っている夕鶴。こちらに何かを言う事なく、前へ顔を向ける。 「……あ」 その言葉を言ったきり黙り込んだ夕鶴を覗き込んだ自分は、彼女の視線が違う場所にある事に気付いた。 何を見ているのか。そちらに視線を向けると、自分の見た事がない青年が歩いていた。 けだるい表情に、猛と似て大人びた服装。だが、自分より圧倒的にそれが似合っている。 見た目もいい彼は、不思議な雰囲気を纏っている。例えるなら夕鶴と同じ。例えようのない、神秘的な雰囲気を醸し出している。 「姫崎さん、知り合い?」 小首を傾げながら問い掛けると彼女は慌ててこちらを見る。ほんのり頬が赤い気がした。 きっと見惚れていたのだろう。そうでなければ、彼女がこんな反応をするはずがないと自分でも分かる。 「なんでもないわ、行きましょう?」 柔らかく笑って、夕鶴は歩きだす。まるでさっきの青年なんてどこにもいないというように。 その仕種がますます怪しいと思うのだが、猛は何も言わずにその背を追い掛ける。
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