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家に帰って来てすぐ、夕鶴が昼ご飯を作ってくれた。猛がお願いしていた蕎麦だ。自然と顔が緩む。 「俺、蕎麦好きなんだよ。ありがとう、姫崎さん」 「いいえ、気にしないで」 にっこりと笑いかけてくれた夕鶴の携帯がいきなり鳴りだし、二人とも飛び上がりそうなくらい驚いた。 「はい。……あ、眞智?」 それからしばらくは、携帯から聞こえる女の人の話し声と夕鶴の笑い声だけが部屋に響く。 頬杖をついて、目の前にいる彼女を見る。とても綺麗な人だ、外見だけではなく内面も。 そんな彼女とこれから一ヶ月間、一緒の部屋に住むなんて。今でもまだ信じられないような気分だった。 ふと猛の耳に恢先輩という言葉が聞こえて来た。その言葉を聞いた彼女の表情が輝く。 「先輩もいるの?じゃあ、私も行くわ」 『ミィ』 夕鶴の肩から、叉玖が返事をする。オサキ狐の存在を知らない自分に彼女がそれを教えてくれたのはついさっき。 あの時はずっと猛を見ながら会話してくれたのに、今は電話中だからこちらを見ようともしない。 大切な家族をとられたような気分になった。そんな事を言える立場でもないが、自然と唇が尖る。 「うん、じゃあまた明日。ばいばい」 やっと電話を切った夕鶴の表情は嬉しそうで、何か嬉しい事があったのだとすぐに分かった。 「何か嬉しい事でもあった?」 浮かれている夕鶴に声をかければ、やっと彼女の綺麗な桃色の瞳がこちらに向く。 しかしそれはみるみる内に細められる。何かを考えているようにしかめられた眉を見て、自分は首を傾げた。 何か悩ませるような事を言っただろうかと自分の言動を思い返してみたが、そんな事を言った記憶はない。 頭を必死で回転させている猛を無視して、夕鶴は再び携帯を触りはじめた。どこかに電話しているらしい。
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