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頭を撫でる夕鶴に抱き着いた瞬間、何故かすぐ近くまで移動していた光輝に引きはがされた。
「わっ!?」
「触るな」
「……貴方もね」
呆れたように呟く彼女の言葉は耳に入っていないらしい。光輝は威嚇するような鋭い眼差しで猛を睨み付けるだけ。
「眞智、なんで呼んだの」
駄目だ、夕鶴はもう完全に諦めてしまっているらしい。彼女の表情は明らかに面倒だと言っている。
「ごめん、ちょっと放っておくのは可哀相かなぁって」
笑う眞智の後ろに居る恢は、ずっと自分を見ていた。その瞳を見ても、彼が何を考えているのか分からない。
「徒人は危ないわ。帰ってください」
「え?」
「……やっぱりか」
夕鶴の言葉に驚いたようにそちらを見る光輝と、彼女の言葉で何かを感じ取ったらしい恢。
あの言葉だけで理解出来る彼は凄い。自分と眞智は、そう言われても分からないのに。
「だから、徒人は邪魔なんです。今日、貴方を庇う事は多分出来ない」
冷たい、突き放すような言葉。その内容に、眞智は困惑しているようだった。
「夕鶴ちゃん……」
光輝は捨てられた子犬のような表情で彼女を見ていたが、夕鶴の態度は変わらず冷たい。
「姫、ちゃんと話せ」
「……猛は神隠しに狙われてる。多分、今日絶対にどこかで接触してくるはずよ」
表情が強張る。首に巻いた数珠はどこまで通用するのか。夕鶴が身につけなくなって、宿る力は弱くなっていた。
強い霊でなければ助かるだろうが、夕鶴の居ない間に接触されればどうなるか分からない。
彼女はため息を付いている。よく見れば、夕鶴の表情も少し強張っているように見えた。
「……分かった、俺帰るよ」
「ありがとうございます、大野先輩」
申し訳なさそうに言う彼女に笑顔を残して、光輝は明らかに落ち込んだ表情で歩いていく。
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