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「……俺は悪くないんです。ただ、回りの人が」
声が小さくなっていき、最後の方になると恢には何を言っているのか聞こえなかった。
辛そうなその声を聞いていると、彼も自分達と変わらず辛い思いをしたのだとよく分かる。
「俺、目の色が普通じゃないから前に『神隠しの森』に荷物隠されて」
神隠しの森と聞いて、表情が険しくなる。それはよく神隠しに合うという噂から呼ばれるようになった森だ。
自分達のような、ある程度力のある霊力者は絶対に近付かないようにしている森である。
「……入ったのか」
呆れ果て、ため息と共に吐き出した言葉に猛は頷いた。神隠しに狙われたのは、タイミングが悪かっただけらしい。
「まぁ、姫や俺らが守ればいいんだな」
「僕も守るのー!」
恢と猛の間に割り込む叉玖。夕鶴の守護獣であるこの獣は、主が守ると決めたものを命を懸けて守る。
「そうだな、頼むよ」
恢が微笑みながら叉玖の頭を撫でる。白髪と耳は今、帽子に隠れているので見えない。
見た目は人にしか見えない。帽子からはみ出した白い髪や古風な服装を除けばだが。
ふと、夕鶴達が後ろを振り向いた。気づかなかったが、もうバス停に着いたようだ。
「どうしたの?」
自分達の間に流れる微妙な気配に気付いた夕鶴が首を傾ける。綺麗な髪が、動きに合わせて零れ落ちた。
「いや、なんでもない」
取り繕うような笑みを浮かべ、猛もただ頷くだけ。こうすれば、彼女は踏み込んでこない。
「そう、じゃあいいわ」
「夕鶴、後ろの二人も。来たわよ」
眞智の声に夕鶴が振り向く。向こうから自分達の乗るバスが走って来たのが見える。
「おいで、叉玖」
彼女が叉玖に手を伸ばして呼ぶと、嬉しそうに駆けていく。恢と猛の間より、やはり主が優先らしい。
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