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「もう少しだから、頑張って」 叉玖の頭を帽子の上から撫でながら言う。人の姿になった叉玖は、獣の時より甘えん坊で我が儘だ。 そんな彼の声が騒がしかったからか、バスの乗客の何人かがこちらを睨んでいるのが分かった。 「静かにしててね」 「はーい」 拗ねたように唇を尖らせるが、彼は言う事を聞いてくれたらしい。静かになった叉玖に微笑みかけた時、バスが次の行き先を告げる。 「あ、ここだ」 その瞬間、全員が一斉に緊張したような空気を纏う。このバスから降りた場合、どうなるのか分からない。 バスのような箱型の為全員が守られているが、外に出たら数珠の守護は猛にしか効果がないはずだ。 「今の内に結界でも張る?」 「いや、俺らを見たら逃げ帰るかもしれない」 「それくらい弱い霊だったらいいけど」 口々に呟くが、やはり表情は張っていた。まだ敵の強さも形もはっきりしていないのだから当たり前だが。 話し合いが中々進まない中、もうバス停は目と鼻の先にある。これは腹を括るしかない。 「降りましょう」 自分の言葉に全員が頷く。猛は緊張しているのか、首にかけてある数珠を握りしめた。 叉玖を最初に降ろした後、じゃんけんで決まった順番に降りる。猛が最初。その次に眞智、夕鶴、恢の順番だ。 眞智が降りてもなにもない。首を傾げて夕鶴が一歩出た瞬間、明らかに空気が変わる。 「姫、しゃがめ!」 恢の切羽詰まった声がして、咄嗟に頭を下げた。鋭い何かを振る音が頭上で聞こえる。それを聞いて、自分の顔から余裕が消える。 「……もしかして、私?」 「違う、猛とお前だ」 恢に腕を捕まれて、引っ張られるような形で走り出す。後ろからは猛と眞智の走る足音と、何かの飛ぶ音。
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