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面倒だ。きっとこの神隠しは、猛を守っている力が夕鶴のものだと気付いたのだろう。
逃げ続けていたって何も変わらない。今だに掴まれてる恢の腕を振り払うと、その場で立ち止まる。
「姫!?」
驚く恢の声と眞智の戸惑う気配がするが気にしない。凄いスピードで向かってくる何かに向かって手を翳す。
「〈阻め〉」
凄まじい音がして、何かが吹き飛ばされる。それは小さな女の子の姿だった。その手には、小柄な体に似合わない大きな鎌が。
「なんで私を狙うの?猛を狙う理由は?」
『……う、痛いよぅ』
ぶつけたらしい頭を抱えながら、女の子の瞳には涙が溜まっている。そんなに痛かったのか。罪悪感はあるが気にしない。
「答えなさい」
符を構えながら詰問する。符から溢れる霊力は、小さな霊には恐怖を覚えるようだ。
瞳に溜まった涙を零し、恐怖に引き攣った顔でこちらを見上げている。
「姫崎さん、ちょっと……」
「止めろ」
あまりに可哀相だから猛が自分の行動を止めようとするが、それは恢によって邪魔された。
彼の顔は強張っている。嫌なものでも見ているかのように。それは眞智も、符を構えた夕鶴も同じ。
『う、うぅ。……ふふ』
鳴咽が途中から笑い声に変わって。その瞬間、夕鶴の頬に深い切り傷が出来る。
「くっ!?」
『あははははは』
一歩下がった自分を追い掛けるよう、女の子の顔が近寄る。それを阻もうと前に出したその腕から、血が噴き出した。
「くそっ!」
「姫!」
「夕鶴、下がって!」
頬の傷からも腕の傷からも血が流れる。慌てて走ってくる恢と眞智。
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