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唇に押し当ててから、呟くような小さな声を出す。 「〈開け〉」 カチャリと鍵が開く。そのまま自分が触れる事なく扉が開いた。 夕鶴が屋上に足を踏み入れると、自然に扉が閉まって鍵の掛かる音がする。 相変わらず、屋上は静かだ。立入禁止なのだから当たり前だが。 「叉玖、おいで」 姿を現した叉玖を眺めながら、自分はただ立ち尽くす。 叉玖は呼ばれた意味が分からないのか、しきりに首を傾げる。 「なんで人は異端を嫌うのかしらね」 異端。それは中学の時から嫌というほど聞いた言葉だ。 誰も近寄らない、話し掛けない。教師でさえ、夕鶴を空気のように扱う。 そんな過去の傷を思い出しながら、自分は叉玖を見つめた。 「見えるものを見ようとしないくせに、霊と向き合った人は異端扱いなんて酷いわ」 誰かが言っていた。自分達のいる現世(うつしよ)と常世は背中合わせの状態だと。 常世にいる者達は、こちらの世界をしっかり見ているのに。 現世にいる人間はまるで後ろを振り向かない。振り向かないから見えない。 そして自分には見えないからと、振り向いた者を迫害する。 「自分達にも資格はあるのに」 現世にいる者は皆、霊を見る資格はある。ただ認めるか認めないかの違いで。 『ミィ』 頷くように首を縦に振る。叉玖も同意をしてくれているようだ。 「ありがとう、叉玖はいい子ね」 「……オサキ狐か。珍しいの飼ってんだなお前」 ふと、自分以外誰もいないと思っていた屋上から声が聞こえた。
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