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眞智達が出て来るのを待つ間、夕鶴は暇だった。先程まで話していた猛は黙り込み、何かを考えているらしい。
呼び掛けても反応はなくて。それどころか、こちらを見ようともしないのだ。
「失礼な人ね」
何を言っても反応しないと分かっていたから、声をかけるのはとっくに諦めていた。
どうせ眞智達はすぐにお化け屋敷から出て来るに決まっている。そして言うのだ、つまらなかったと。
そう言う表情まで想像して、夕鶴は笑ってしまう。そんな三人の姿が安易に想像出来た。
「……呼ばれた」
横にいる猛が、不意に小さな声で呟く。どこかぼんやりとしていて夢見心地だ。
「猛?」
夕鶴が問い掛けるのと、猛が首にかけていた数珠が砕けるのはほぼ同時。
自分が目を見開いてその数珠を見ている間に、彼は信じられないようなスピードで走り出す。
「猛っ!」
慌てて追い掛けるが追い付かない。言魂を使えば楽だが、人が多い場所で使うのはよくない。
考え事をしている夕鶴は、とっくに猛を見失っていた。しかし場所は分かる。まだ少し、猛には砕けた数珠の力が残っている。
その力を辿っていくと、どうやら彼が向かっているのは巨大な観覧車のようだった。
「なんで観覧車?」
それに猛の呟きも気になった。誰に呼ばれたか考えたら、思い付くのは一人。彼がここに来る原因を作った神隠ししかいない。
「面倒ね」
あの力は厄介だ。いつ力を使ってくるのか分からない。だから先程は何も出来ずに二度も攻撃を受けてしまった。
だが今回はそうはいかない。一度攻撃を受けてしまったのなら、もう大丈夫だから。
「覚悟しなさい」
優しく常世になんか帰さない。謝りたくなるくらい、痛め付けてやる。夕鶴の瞳が嫌な色に光り、観覧車を睨み付けた。
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