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辺りに視線を動かしても、やはり誰も見つからない。 ただ感じる人の気配。それの場所に気付いて、夕鶴は叫ぶ。 「叉玖!」 『キィ!!』 自分の呼びかけに反応して、叉玖は大きく跳ぶ。向かった場所は出入口の上だ。 「うわ、なんだよお前!止めろって!!」 『キイィ』 暴れまわる音がして、人影が降ってくる。それを待っていたのだ。 人差し指を唇に押し付けてから、自分は笑みを浮かべる。 「〈止まりなさい〉」 空中で動きを止めたのは、学ランを程よく着崩した青年だった。 深い青の髪をしている青年は、空中で動けなくなった事に驚いているらしい。 「なんだこれ。お前、もしかして言魂使いか?」 「えぇ、そうよ。で、貴方は誰?」 青年の前に立ち、真っ直ぐ彼を見る。肩には青年を追いかけていた叉玖もいる。 「今回の巫女姫は、お転婆なやつだな」 聞かれた言葉に答える事なく、知られていないはずの内容を口にする青年。 夕鶴は片眉をあげて、ますますその怪しい青年に近寄る。 「……なんでそれを?」 「俺は、巫女姫の守り人だからな」 「守り人?」 首を傾げる。そんな人がいるなんて聞いた事がない。 「まぁ、俺が勝手に決めただけだがな」 青年がそう言った瞬間、自分の言魂が弾き飛ばされた。 夕鶴の言魂の力を弾き飛ばした後、青年は風に包まれて床に下りる。 確かに油断していたが、今まで力を破られた事はない。鋭く青年を睨む。 「俺は鴉島井恢(あじまい かい)。よろしくな、巫女姫」 手を差し出してくる恢の力を感じて、夕鶴の顔に笑みが浮かぶ。
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