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襲い掛かる猛から神隠しを引きはがす事は簡単。だがその後だ。あれに勝てるかどうかが微妙なところで。 「とりあえず、〈止まれ〉」 不自然な形で止まる猛。目には驚きと迷いの色が浮かんでいる事に気付いて、目を細める。 「あのね、猛。私はただ手伝いしかしてあげない。貴方が自力で追い払いなさい」 その言葉が聞こえたのかは分からないが、不意に彼の表情が歪む。嫌々と首を振り、怒りに溢れた眼差しが自分を貫く。 「小娘、また邪魔をするの!?この子は私のよ!」 「馬鹿ね、ただ遊んでもらっただけで貴方のものだなんて。やっぱり子供でしかないようね」 挑発に険しくなる顔。もっと怒ればいい。そうしたら付け入る隙が出来る。怒っている時程、隙が出来る時はないから。 「〈引きはがせ〉!」 夕鶴が叫ぶ。その瞬間、猛の口から凄まじい絶叫が上がる。 苦しそうに暴れるが、それは言魂によって止められてしまう。 「や、めろ。止めろ!!」 口から上がるのは苦しそうな声。しかし止めようとはしない。止める訳がなかった。 「私を傷付けた事と猛を利用した事、ここで後悔しなさい」 低い声、殺気に満ち溢れた言葉。それらが刃となって彼の中にいる神隠しを切り刻む。 「あぁああぁ!」 神隠しの絶叫が響く。猛に怪我はない。あくまで夕鶴の狙いは霊体であるから、彼に傷は付かない。 我慢出来なくなったのか、彼の体から傷だらけになった少女が出て来る。 待っていた瞬間がやっと来た。小さく笑って最早虫の息状態の神隠しの前に立つ。 「さぁ、常世に帰る時間よ。十分苦しんだでしょう?」 手に持つ符が、凄まじい力を宿していると気付いた神隠しの顔が強張った。それを冷たい眼差しで見つめ、一言だけ吐き捨てる。 「傷付けなかったら楽に死ねたのに。馬鹿な人」 同情も躊躇いも、そこには少しもない。符が自分の手から離れて、神隠しに触れた。
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