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凄まじい音を立てて、符から光が溢れる。それはゆっくりと神隠しを覆い隠していく。 『あぁああぁ!まだ、まだ帰りたくない!!』 それでも帰らないと暴れる神隠しに呆れ果てる。どこまで帰る事を嫌がるのか。まだ痛くない内に帰った方がいいのに。 しかしそんな思いが通じるはずもなく、その暴れ方はますます激しくなっていく。 「仕方ないなぁ」 ため息をついてから神隠しのすぐ側にまで歩いていくと、夕鶴は口を開く。 「〈常世に帰りなさい〉」 光が強くなった。それに比例して、叫び声も大きくなる。しばらく転がって反抗していたが、いい加減諦めたらしい。 それか抵抗する力がなくなったのか分からないが、暴れる事なく静かに座っていた。 「人に手を出すからこうなるのよ。馬鹿な人」 自分の言葉を最後に、跡形もなく消えてしまう。神隠しの欠片である小さな光の粒は、浄化する前に消えた。 「これでよし」 夕鶴が笑った瞬間、何かが砕ける綺麗な音が響く。視界が歪んで気持ち悪い。膝をつきかけた猛が、誰かに助けられたのが見える。 「大丈夫か?」 「あぁ、はい」 それは恢だった。どうやら異界は消えたようで、回りにも沢山の人が見えた。 猛達を眺めていると、何故か眞智に叱られた。勝手にどこかに行くなと眉を吊り上げている。 よく見ると空は暗い。ともう夕方。いつまであの中に居たのだろうか。 相変わらず叱られたままだったが、それが面白くて噴き出した。眞智も本気ではないらしく、口許が少し緩んでいる。 「仲、いいんですね」 「そりゃ、あいつらは親友だからな」 後ろからそんな会話が聞こえてくる。どうやら猛の人見知りはもうとっくに終わっているようだった。
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