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「どうもー、ご利用ありがとうございます」
扉の鍵を開ける音と係員の声が聞こえてきた瞬間、夕鶴は力の限り恢を突き飛ばした。
「うわっ」
それに彼が怯んだ隙に、腕から抜け出して外に出る。顔はまだ熱くて、眞智達に絡まれるんじゃないかというくらい。
まさかあんな事になるなんて、考えられなかった。何故、という疑問しか浮かばない。
確かに恢は男性で、自分は女性で。そういう関係になる事も、もしかしたらあるかもしれないが。
少なくとも今ではない。自分にも彼にも、そんな感情なんてあるはずがないのに。
「夕鶴ー、帰るのー?」
少し離れた場所にいる恢を見ていた夕鶴に、叉玖が飛び掛かる。急な事に驚いて数歩下がるが、すぐに笑う。
「そうね、そろそろ帰らなきゃ」
恢が自分に触れてきた原因は分からない。でも、嫌じゃなかったという事に夕鶴自身が驚く。
あの時、光輝にキスされた時とは違う。まぁ、された訳ではないのだが。
「夕鶴、顔真っ赤!」
やはり眞智には気付かれたらしい。夕鶴は苦笑しながら、彼女の質問を受け流す事にした。
楽しい時間なんてあっという間に過ぎてしまうもの。観覧車を乗って終わりにしようと話していたが、やはりそうなったら少し寂しい。
「夕鶴、またみんなで来ようねー!」
叉玖が夕鶴に抱き着きながら言う。その言葉に、自分は満面の笑みを浮かべた。
「そうね、また来ましょうね!」
その言葉は叉玖ではなく、数歩前にいる眞智達に向けられたものらしい。
彼らは口々に返事を返すが、そのどれもが否定ではなく肯定で。こうやって遊んで笑いあえる仲間がいる事が、とてもうれしかった。
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