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「どうしてここに?」
抱き着いてくる聖から少し距離をとって笑いかける。そうすると、彼も同じように微笑んでくれた。
「俺、やっぱり夕鶴の側に居たかったんですよ。夕鶴、巫女姫になったと聞きましたけど」
事実なのかと問いかける眼差しに、苦笑する。それだけで自分が言いたい事を理解したのか、ため息をつく。
「夕鶴、貴方は大切な『底無しの霊力』を持つ霊力者です。巫女姫なるという馬鹿な事はやめた方がいいですよ」
聖の話し方は小さな子供に言い聞かせるような話し方で。そして何より、巫女姫という称号を馬鹿にしている言葉。
「……聖?」
自分の記憶にある彼とは何かが違う。どこか、作りものに見える笑顔のせいかもしれない。
疑問がそのまま込められた眼差しを受けたからか、聖は笑顔を苦笑に変える。
「人は変わるものですよ。俺はもう、貴方の知っている聖じゃない」
純粋さはなくなってしまったと。いろいろなものを知ってしまったのだと、彼は言った。
巫女姫についてはいろいろ知っているらしい。流石、神に仕える家柄。話を聞きたい気はするが、巫女姫をやめるつもりはない。
そんな事をしたら、恢との繋がりがなくなってしまう。そして自分は龍巳家に盾突くつもりもなかった。
彼女達に盾突く事ほど面倒な事はないだろう。負けるつもりはないのだが、厄介なのには変わりない。
「聖、悪いけど私は巫女姫を続けるわ」
「何故?」
聖の瞳が細められた。その冷たい色に一瞬だけ怯む。しかし、怯んでいたら自分の思いを伝えられない。
「もう巫女姫になると決めたから。守り人もいるし、そんなに悪い事ではないわ」
「……守り人?」
自分の言葉で聖が反応したのは、全く予想もしていなかった単語にだった。
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