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「あら、知ってるの?」
守り人という言葉自体、夕鶴は知らなかった。しかし聖は神山の一族。自分よりそういう事に詳しくて当たり前だろう。
彼は自分の問い掛けに曖昧な笑みを浮かべる。言いたいような、言いたくないような顔。
「どうしたの?」
「……姫崎、感動の再会中悪いんだが」
苛立ったような低い声がかけられた。その瞬間、明らかに嫌がるような顔をしたと自覚はある。
その表情を浮かべたまま振り向いたら、目の前にいた男性は顔を引き攣らせた。
「谷野ちゃん、何?」
「谷野先生だ馬鹿」
目の前にいた、明らかにやる気がなさそうな男性は夕鶴達の担任。名前は谷野 叶(やの かなえ)。
「谷野先生より谷野ちゃん。谷野ちゃんより叶ちゃんの方が可愛いわよ」
「そうかそうか、お前はそんなに成績を下げられたいか」
完全に笑いながら怒る谷野に対し、自分は馬鹿にした態度を崩さない。それのせいで、結局はいつも向こうが折れる。
「……もういい、もういいから座れ」
とりあえず授業をはじめなければいけない為、深いため息をつくだけにしたらしい。
いつもの光景、いつもの朝。担任をからかって遊ぶのは、自分の学校での唯一の楽しみだった。
谷野に視線を向けていた夕鶴は、何の気無しに聖に視線を向ける。しかし、すぐ後にそれを酷く後悔してしまった。
彼は笑っていなくて。恐ろしい程の無表情のまま、何かを考えるように空中を睨んでいた。
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