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夕鶴の戸惑っている眼差しに気付いたのか、こちらに視線を向けてきた恢が柔らかく笑う。
「悪い、姫。気にすんな」
「……夕鶴、もしかしてですが守り人って言うのは彼ですか?」
聖が目を細めて恢を見る。その見下したような視線を、彼は真っ向から受け止めた。
夕鶴は頷く事しか出来ない。何がどうなっているのか分からないから。ため息をついた聖の視線が、彼から眞智に向けられる。
「狐、ですか。あまりいい守り人はいないんですね」
「どういう事?」
眞智が一歩前に出る。唸るような低い声をしていた。馬鹿にされたと感じたのだろう。明らかに、聖の言い方は悪かった。
昔は人に喧嘩を売るような子ではなかったのに。やはり変わってしまったのだろうか。
「狐や天狗なんて、不吉の象徴じゃないですか。そんなのが、夕鶴の側にいていい訳がない」
「……お前ならいいと?」
恢が無表情に近い顔で真っ直ぐ聖を見ている。いや、睨んでいるの方が正しい。彼らの間にある壁はなんなのか。
「底無しの霊力者。その方を守護するのが俺達神山の役目」
そんな事、夕鶴は全く知らない。つい最近まで、巫女姫の存在も守り人の事さえ知らなかった。
「聖、そんな事言わないで!先輩も眞智も私の大切な守り人よ。いくら貴方でも、馬鹿にするのは許さないわ」
夕鶴の言葉には納得していないようだったが、聖は取りあえず黙ってくれた。
困り果てた表情の自分に気付いたのだろう、恢と眞智も同じく。気まずい無言は、チャイムがなるまでずっと続いていた。
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