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あれから数日経った。
相変わらず、憤怒の気配を聖から感じるがそれ以外は変わらない。いや、一つだけ変わってしまった事がある。
「夕鶴!」
満面の笑みを浮かべながら夕鶴に走り寄ってくる聖。駆け寄る彼を見て、すぐ横にいた恢から表情が消えた事に気付く。
これが最近変わってしまった事で。恢と話していると、必ずといたていい程聖がやってくる。
そして今まで側にいてくれた恢は、その姿を見るのとほぼ同時に姿を消そうとするのだ。
「じゃあな、姫。気をつけろよ」
そうやって去っていく。夕鶴はいつも、背を見送るだけ。呼び止める資格はない。恢が自分の意思で側にいてくれているのだから。
たまに思う。これがもし契約だったら。恢はずっと自分の側にいてくれるというのに。
そこまで考えて、ふと我に返る。自分は今、最低な事を考えていた事に気付いて愕然とした。
「……夕鶴?」
聖に覗き込まれる。彼から溢れる負の感情に呑まれてしまったらしい。自分は気付かれないように眉を寄せる。
まさか自分にまで影響があるなんて。早く何とかした方がいい。これはもう、笑い事では済まされない。
ただ、少しだけ不安になる。祓うと言ったら、恢は来てくれるだろうか。
「馬鹿馬鹿しい」
来てくれるに決まっている。だって自分は巫女姫で、恢はそれの守り人なのだから。
そうと決まればすぐ話し合いたいが、今は聖がいる。恢のアドレスも電話番号も住所も、何一つ知らないから連絡出来ない。
完全に手詰まりという事だ。この際、浮遊霊達を使って知らせるのもいいかもしれない。
「ごめん、聖。私は今日一人で帰るわ」
眞智は用事があると言って一人で先に帰っているし、今は聖と帰る気分じゃない。
「そう、ですか」
聖は悲しそうにうなだれてしまっていたが、それでも夕鶴が折れる事はなかった。
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