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瞬間、近くにいた叉玖の白い毛が逆立った。 それを夕鶴が見た時、凄まじく嫌な風が体を包み込む。 「……あっ?」 背中を生温いもので撫でられたような不快感。よく知ったその感覚に、自分と恢は顔をしかめた。 「何か来るな。姫、お前戦った事は?」 「あまりないです」 体が震える。何度か襲われた事はあるが、今までで一番嫌な感じだ。 このねっとりとした風は、近くに悪霊やそれに似ているものがいるという証拠。 「下がっとけ。後、結界作れるか?即席でいいけど、なるべく見えないやつだ」 「分かりました」 一回深呼吸したらもう大丈夫。心を落ち着かせて、夕鶴は小さく呟いた。 そしていつもみたいに柏手を二回打つ。それだけで結界は完成だ。 結界は、本当にうっすらとしか見えない。近寄らない限り気付かないだろう。 「即席なのに綻びが見当たらねぇな。姫はやっぱり凄いわ」 「何言ってるんです、綻びだらけだわ」 結界は、細い糸にした霊力を重ねて作るもの。作る時間が早い程、綻びが目立ち強度は落ちる。 恢は即席で綺麗に作られた結界を見るのは初めてらしいが、夕鶴にしてはいつも作っているものだ。 凄いと言われても分からないし、自分の結界以外見た事がないから比べられない。 「……来た」 不意に、恢が酷く真面目な表情で呟く。その言葉に顔が強張る。 確かに、あの気配はすぐ近くに来ている。出入口の前にいるようだ。 「姫さんは俺の後ろへ。オサキ狐、来い」 守り人とオサキ狐が先頭。自分はただ小さく震える体を両腕で抱くようにして縮こまる。 が、じっとしているつもりはない。守られてばかりは嫌だ。 耳障りな古びた音を立てながら、扉が開いた。
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