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自分を襲いにきたくせに、本当は忠告をしにきたというのか。そんな言葉に耳を傾けるほど、夕鶴は慈悲深い訳ではない。 「馬鹿ね。そんな言葉、信じる訳ないわ」 『信じる信じないは勝手だ。ただ、神山聖には気をつけろ』 つい、動きが止まる。今、この獣はなんと言った。聞き覚えのある名前が聞こえた気がする。そして、気をつけろという言葉も。 何を知っているのか。この漆黒の獣は何がしたいのか。考えても思い付かないが、それでも考えてしまう。 「……貴方は」 『これ以上は何も言えない。しかし、気をつけた方がいい』 神山聖は本当に危険なのだと。そう獣は言葉を続けた。何が危険なのかも教えてくれないし、自分から見たら聖は危険に見えない。 この忠告を聞くべきか、それとも振り払うべきか。ふと、壁にかけてある時計が目に入って瞳を見開いた。 家に帰ってから一時間は経っている。とっくに約束の時間は過ぎているのに、猛はまだ帰らない。 どうなっているのか。流石に六時を過ぎた時間に連絡がないのは少しおかしかった。 猛は真面目な子だ。約束していた時間を過ぎる場合は、いつも連絡をいれてくれるのだから。 それなのに、今日は何もない。夕鶴の嫌な予感があたったという事で間違いなさそうだ。 「叉玖!」 振り向いて背後にいる叉玖を呼んだ後、ベランダにあの獣の姿がないという事に気付く。 まさか、あれはただの時間稼ぎだったのではないか。あの言葉も関係ないかもしれない。 あんな甘言に耳を傾けた悔しさに唇を噛み締めて、夕鶴はただ叉玖の頭に手を置いた。
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