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不意に、意識が引き上げられた。
なんだろうと首を傾げながら起き上がると、自分の真横に朧げな何かが立っている。
その何かに体を揺すられて、自分は目を覚ましてしまったのだろう。
「……何?」
無理矢理起こされたその少女は、近くにあるその物体を睨む。
それらは俗に言う幽霊と呼ばれる物体だ。ただ浮遊霊である為、人には全くの無害。
その浮遊霊が、この少女の部屋の中に大量に存在していた。
少女は自慢の長い髪を掻き上げて、それらの様子を見る。
何かに怯えたように部屋の隅に固まって震えていた。それはいつも浮遊霊のする、自分より強い者にあった時の行動。
彼らはいつも自分と共にいる。だから少女に怯えている訳ではない。
なら、これらは何に怯えているというのか。
ふと、自分の部屋の前に何かの気配を感じて少女は眉を寄せる。
この気配は幽霊ではない。なら、生きている人間だ。しかもかなりの力の持ち主。
「ねぇ」
すぐ近くにいた浮遊霊に声をかける。朧げにしか見えていない為分からないが、少女には確かにこっちを見た事が分かった。
「見てきて」
浮遊霊は嫌々と首を振る。自分より強い者には近付かない。それが普通だ。
「ここに匿ってるのは誰?この部屋の主は誰なのかくらい、分かるわね?」
浮遊霊は弱い霊だ。その為、人の念や思いに触れるとすぐに自分の『姿』を忘れてしまう。
それを忘れさせない為に、少女は浮遊霊を自分の部屋に匿っているのだ。
浮遊霊は少女の部屋で気が済むまで過ごし、死後の世界である常世(とこよ)に帰る。
その為、彼らはこの少女の言葉に弱い。頼まれた浮遊霊も例外ではなく、ふわふわ浮きながら玄関に向かった。
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