01

12/54
前へ
/213ページ
次へ
「見付けたわ、夕鶴」 そこから姿を現したのは、眞智だった。 いつもの笑顔のまま、真っ直ぐ夕鶴を見つめている。 「え、眞智?」 彼女の姿を見た瞬間、自分の感じていた嫌な気配が跡形もなく消え去った。 屋上に来ようとして眞智が居たから来られなかったのだろうか。 少し安心して息を吐いた夕鶴だったが、まだ胸に突っ掛かっているものが取れない。 それは多分、恢も叉玖も警戒を解いていないからだろう。 「眞智、どうしてここにいるの?」 その嫌な予感を信じたくなくて、自分は恢の横を通り抜けようとする。 なのにそれは出来なくて。彼が自分を止めるように腕を掴んだからだ。 「行くな」 「なんでです?眞智は私の友達ですよ」 それ以上何も言わないで。夕鶴の心がそう言っている。 聞きたくない。聞いたら、何故かもう戻れないような気がして。 自分の表情がそう語っていたのか、恢は一瞬だけ躊躇する。 「夕鶴?もう少しで昼休み終わるわよ。戻りましょう?」 差し出される手。いつもなら嬉しいのだが、今は嫌だ。 眞智は怯えたように一歩後ろに移動した自分を不思議そうに見る。 「夕鶴?」 「……えっと、ごめん。先に行ってて」 精一杯笑顔を浮かべると、彼女は呆れたように眉を下げた。 仕方ないなぁ、なんて言いながら背を向けて去っていく彼女に、夕鶴は問い掛けていた。 「……鍵掛かってたのに、どうやって入ったの?」 歩みを止めた眞智。動かなくなった彼女から、一瞬だけ感じたあの気配。 「鍵、空いてたわよ?」 振り向いて無表情そう言うと、眞智は今度こそ屋上を後にした。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加