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それから、天狗は毎日毎日女性と会話をした。もう隠れる必要も、話したいという気持ちを隠す必要はなくて。 しかし、毎回天狗は人の姿でしか彼女の前に現れない。女性がどれだけ本当の姿を見たいと言っても。 それは天狗としてのプライドか、それとも彼女と同じ種族でいたかったのか。 夢を見ている恢には分からないが、彼女は分かっていたらしい。いつしか、天狗の姿を見たいとは言わなくなった。 『あら、こんにちは紅灯(こうひ)』 彼女は天狗に名をくれた。今まで名前なんてなかったから、とても嬉しくて。 彼女は名前を教えてくれた事があったけれど、結局は一度も呼べなかった。 綺麗な名前。光り輝く、美しい名前だから。妖怪である自分が呼んだら、汚れてしまいそうで。 そんな事を告げると、彼女はいつも笑うのだ。馬鹿ねと、あの穏やかな笑顔のまま。 『私の名前はそれだけで強い力を宿しているわ。妖怪に呼ばれただけで汚れたりしない』 彼女が近寄ってくる。いつもどこか距離をつくっていたのに、それに構う事なく。 これ以上は駄目だ。境界線を越えては駄目だと。しかし彼女は頬に触れた。目の前で、蕩けるように笑ってくれた。 『それに、紅灯。私は貴方に名を呼んでもらいたいわ』 我慢が出来なくて。折れてしまいそうな彼女の体を引き寄せて、力いっぱい抱きしめる。 細い。人間とはなんて弱々しい生き物なのだろう。すぐに消えてしまいそうだ。 儚くて、切なくて、弱々しい。だからこそ、とても愛しい。 『好きよ、紅灯』 『俺もだよ――』   
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