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「夕鶴」
どうしてこんな事になってしまったのか。辺りを見回しながら、夕鶴は考える。
自分の背後には、眞智を庇った猛が倒れていた。そしてその腕にいる彼女は、怪我こそしていないものの気を失っている。
自分と戦おうとしてくれた叉玖は。夕鶴の横で巨大な姿のまま倒れていた。これら全てが聖の仕業で。
正確に言うと彼に捕らえられている龍の仕業だが。命令したのは彼なので、聖の仕業でいいのか。
この現実の意味が分からない。どうして聖が。どうして彼が、自分の大切な人を傷付けている。
「全く、体育館倉庫でじっとしてれば傷付かなかったのに。馬鹿な人達ですね」
「……聖」
聞きたくない。今の言葉はまるで、彼らを閉じ込めたのは自分だと言っているようなもの。
彼がこの事件の犯人であると自分だって気付いているが、どうしてもそれを認めたくなかった。
「どうして貴方がこんな事をするの!?」
「夕鶴。貴方の側には俺がいたらいい。俺以外、貴方の側にいる事は許せないんです」
昔から独占欲の強い子だと思っていたが。昔は可愛かった。夕鶴は僕のだと叫ぶ程度だったから。
何がこんなに彼を変えてしまったのだろう。なんで、変わってしまったのだろう。
「お願い、止めて聖」
自分の大切な人に、同じくらい大切な人が傷付けられるなんて。そんなのは見たくない。聞きたくもない。
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