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眞智が居なくなると、夕鶴の体から力が抜けた。 膝をつきそうになる自分を支えながら、恢の表情は真剣なもので。 「あの女だな。『鬼』が憑いてる」 鬼。憑いている。そんな言葉は聞きたくない。信じたくなかった。 だって彼女は。霊力なんて少しもない、普通の人間なのに。 鬼に憑かれているというのなら、自分が気付かない訳がない。 「嘘です、そんなの。先輩は嘘をついてるんでしょう?」 「嘘?」 恢が顔をしかめる。何を言っているのか分からないというような表情だ。 鋭い眼差しを向けられても怯まない。彼女が憑かれているのはありえないから。 「眞智は取り憑かれてません。だって、それなら私が気付くわ」 いつも一緒にいる自分が、彼女に憑いた鬼の気配に気付かない訳がない。 だが恢は、そんな夕鶴の言葉を鼻で笑うだけだった。 「お前は気付かないんじゃなくて、その事実から目を逸らしてるだけだろ」 「逸らしてなんか!」 彼の言葉に反論しようとするが、言葉が出てこない。 否定しなくてはと思う程、喉につっかえて出てきてくれないのだ。 「気付いてるのに気付かないフリは後々きつい事になるぞ」 頭の中に浮かぶのは、叉玖の状態。いつの間にか、ずっと眞智を威嚇するようになっていた。 彼女と一緒にいる時の違和感。そして今さっきの自分の問い掛けが答えだ。 ちゃんと鍵を閉めた事は分かっている。眞智に憑く鬼が鍵を開けたのだと、知っていたから。 「……でも」 彼女は何も知らなくて。普通にどこにでもいる人のはずだったのに。 座り込む自分の前にしゃがんで、恢は顔を覗き込んだ。
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