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聞こえているだろうに、夕鶴は振り向く事さえしない。それどころか、大きく手を広げて聖の前に立った。
「貴方は、私が守るの」
小さな声でそう言う夕鶴。強い覚悟を秘めた声で。そんな彼女を見て、動く事が出来なかった。
それでも何かをしないという選択肢はない。すぐ近くにいる彼女に聞こえるよう、声を張り上げる。
「駄目だ、夕鶴。君じゃ倒せません!」
「やってみないと分からないわ。私は強いわよ?」
彼女の横顔を見て目を見開く。口元が緩んでいる意味が分からない。下手をすれば死んでしまうのに。
「私はずっと聖を忘れなかった。今も昔も、貴方は私の大切な友達よ。でも、貴方の後ろにいる人達も大切なの。その人を守る為なら、なんでもするわ」
強い強い言葉だった。言魂よりも強い、魔力の篭った言葉。それに絡めとられて動けない聖の耳に、龍の咆哮が飛び込んだ。
彼らは完全に夕鶴を獲物と定めたらしい。あれはもう、誰にも止める事が出来ない。
「……止めろ」
聖の言葉は龍に届かない。こんな事になるなら、彼らを使役すればよかった。
無理矢理従わせた事が、こんなところで仇になるなんて。自分には考えられなかった。
「来なさい!」
夕鶴の声が空気を震わせ、龍の咆哮が響く。真っ直ぐ彼女に向かう龍を見ながら呆然とした。
「大丈夫。大丈夫よ、聖。私が守るから」
いつも聞いていた優しい声、優しい表情。あの時は酷く安心できた声だというのに。どうして今はこんなに悲しい。
「止めろ!!」
聖の叫びはやはり、最後まで届く事はなくて。夕鶴の立っていた場所に、龍が勢いよく襲い掛かった。
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