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それから、眞智は授業を受ける事なく家に帰る。 あのまま教室に行って、彼女に会いたくなかった。 自分が何故こんな事をしているのか、たまに分からなくなる。 鬼に憑かれ、自分は人を殺したり殺した人を食べたり。 どうしてそんな事をしなければいけないのか、分からなくなる。 『無駄な事を考えるな、眞智。お前は俺様に従えばいい』 頭が痛む。何も考えられなくなるような、強い痛みが襲ってきた。 「わ、分かったわ。分かったからやめて!」 痛みに耐え切れずに叫ぶと、やっと痛みから解放される。 いつもこうだ。考えれば邪魔される。だからもう、眞智は考えない。 『それでいい。いい子だな』 操られている事には気付いてる。どんどん自分じゃなくなるのは怖い。 それでも。人を殺す事や食べる事への恐怖がなくなるならそれでいい。 「今日はどこ?」 『人の通らない路地裏だな』 いつもその場所なのだが。少しくらい場所を変えてもいい気がする。 『口答えか?』 びくりと体が跳ねる。駄目だ、こいつに口答えをしてはいけない。 曉に対する恐怖は体に染み込んでしまっているようだ。 『お前はもう、俺様のものだ。諦めろ、眞智』 にやりと影が笑う。あぁ、逃れる事など出来ないんだろう。 何を間違えたのか、自分は。どこで道を踏み外してしまったの? 『さぁ、出掛けようか』 聞こえた声に視線を外に向ければ、いつの間にか夕暮れになっていた。 この今頃を、昔では何と言うんだったか。 「……逢魔が時」 あぁそうだ。大禍時とも言う、禍いの起こる時刻の事。 そんな時間に動き出すなんて、皮肉なものだ。 眞智は自嘲気味に笑いながら、ゆっくりと家を後にした。
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