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「どうしたの?彼方(かなた)」 目の前にいた人物が声をかけてきた。その声に、涙が出るくらい安心する。 「ま、眞智!よかった」 今までの不安はなくなった。あの時感じた、嫌な気配まで。 眞智は闇に隠れるようにしながら、その漆黒の服を翻す。 「あら、何安心してるの?」 「……え?」 彼女の一言に何かが崩れた。今まで感じていた安堵は消え、ごまかせないくらい嫌な気配を感じる。 膝が笑う。恐怖で一歩も動く事が出来なくて。 眞智が闇から出てきた。その姿を見た瞬間、自分の口から悲鳴が上がる。 その姿はまるで鬼のよう。額から生える二本の角と鋭く尖った牙と爪。瞳は、血のような赤色だった。 「ば、化け物」 「あら、ありがとう。そういえば貴方、夕鶴の事もそう言ってたわね」 眞智の赤い瞳が細められる。そういえば彼女は、夕鶴を酷く大切にしていた。 周りが皆、夕鶴を異端だと言っても。彼女だけは態度を変えなかったのだ。 「貴方も、化け物だからね!?だから同じ化け物の夕鶴を避けなかったのね!」 『喧しい小娘だな。しかもまずそうだ』 彼女の影が話す。眞智も面倒そうに彼方に視線を向けるだけ。 駄目だ、殺される。ここで絶対に助かる見込みは、ない。 「彼方、貴方に恨みはないわ。あるとしたら夕鶴を避けた事だけ。常世でそれを後悔するのね」 眞智が彼方に走り寄る。その長く鋭い爪を、自分の心臓に突き刺す為に。 「ああぁあぁぁ!」 恐怖が最大にまで膨れ上がり、大きな声で悲鳴をあげた。
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