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だが、いつまで経っても痛みは来ない。顔を上げると、目の前には見た事のない青年がいた。 闇の中でも輝く深い青の髪。整った顔は、真剣に眞智を見つめていた。 「やっと見つけたぞ、鬼。こんな場所に隠れやがって」 「……貴方、今日夕鶴と一緒にいた人ね」 眞智の目が細められる。狩りを邪魔されたからか、不機嫌そうだ。 対する青年も、姿勢を低くして戦う構えをとっている。 「彼方だったか、下がってろ」 「え?あ、はい」 何がなんだか分からない。ただ青年の言う事を聞いて後ろに下がった。 理由は分からないが、この青年は自分を助けようとしてくれているらしい。 「さて、鬼。大人しく居なくなるか、ここで死ぬか。選べ」 「ふふ、天狗が調子にのらないで」 眞智が間合いを詰める。その爪が青年に突き刺さる前に、巨大な翼が現れた。 翼に阻まれ、彼女の爪は青年に突き刺さる事なく弾き飛ばされる。 「……え?」 唖然としたのはこちらの方。何が起こってるのか全く分からない。 眞智が鬼で、普通の人かと思っていた青年には翼が生えて。 頭がこんがらがってきた。何故こんな、化け物ばかりここにいる。 「死ね!」 眞智の手から漆黒の炎が姿を現す。それは真っ直ぐ青年に向かった。 「吹き飛ばせ」 対抗するように、青年を風が包む。その風を腕に集めて投げ付けた。 凄まじい風に負けて倒れそうになる。それを柔らかい何かが受け止めた。 『風使いは好まん。逃げるぞ、眞智』 「……分かったわ」 眞智は影の言葉に従い、闇の中へ向かう。しかし途中で青年を見て微笑む。 「夕鶴の事、守れるものなら守ってみなさい」 安っぽい挑発だ。それだけ言うと、彼女は闇に紛れて消えてしまった。
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