01

20/54
前へ
/213ページ
次へ
静まり返る路地裏。その時になってやっと、自分を支えたのが翼だと気付く。 「……東上(とうじょう)彼方だな?」 真っ直ぐ瞳を見られて、彼方の顔がみるみる赤くなった。 目の前にいる青年はかっこよかった。そんな人が自分を守ってくれたなんて夢のようで。 「は、はい。何故それを?」 まさか、俺は貴方が好きなんですなんて言葉が来るのか。 ワクワクしながら青年を見ると、彼はそっと手を差し出してくる。 「姫が待ってる。一緒に来い」 「姫?」 誰だろう。それが名前だったらある意味可哀相な名前をしている。 首を傾げていろいろ考えている彼方の腕を、青年はがっしりと掴む。 そしてあろう事か、巨大な翼を羽ばたかせて空を飛んだのだ。 「きゃ!?」 「早く来い。待たせたらあいつが寝ちまう」 今は九時過ぎだ。良い子は寝ている時間だが、普通は寝てないだろう。 ただ掴まれた腕を離す気にもなれないから、このままにしておく。 あぁ、自分はこの名前も知らない人を好きになってしまったんだ。 なんて考えながら、彼方はただ目を瞑って下を見ない事にした。 ―――――――――――――― たどり着いた場所は、見覚えのあるマンションだった。 記憶に間違いがなければ、ここは大嫌いな少女が引っ越した場所のはず。 青年はそんな自分の様子を気にもせず、どんどん歩いていく。 「あ、待ってくださいよ。貴方、名前は?なんで助けてくれたの?」 駆け寄りながら尋ねる彼方を、欝陶しいというような眼差しで見てきた。 それでも負けない。ここで負けたら女が廃る。絶対に彼を落としてやる。 謎の決意をした自分の前にいた青年が、ある部屋の前で立ち止まる。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加