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そこにある名前を見て顔をしかめた。書かれていた苗字は姫崎だ。 『姫』崎だから姫。馬鹿らしい呼び名だとは思っていたが。 似合わないは言えない。悔しいが、彼女の容姿を考えれば姫という言葉はぴったりで。 「姫、居るか?」 カチャリと鍵が開き、誰もいないのに勝手に扉が開く。 青年は何かにお礼を言ってから、躊躇う事なく入っていった。 慌てて着いていくが、内心は逃げ出してしまいたい。 この家はあの異端である夕鶴の家。何があるか分からない。また殺されかける可能性もある。 「ありがとう、先輩」 奥から出てきた夕鶴は、綺麗だった。悔しいが中学よりも綺麗になっている。 桃色の瞳が自分に向き、自然と体が強張った。眞智の時の恐怖が抜けていないようだ。 ―――――――――――――― 「……よかった。彼方は無事ね」 嫌われているのは分かっている。その理由も知っているけれど。 それでも心配だった。元は親友。そして彼女を狙うのは、自分の今の親友だから。 「……鴉島井先輩」 「あぁ、姫の予感は当たってた。こいつを喰う気だったらしい」 「彼方を助けてくださり、ありがとうございます」 自分は頭を下げる。彼方は恢ばかり見ていて、こちらを見ないが。 「鴉島井さん、ですよね?夕鶴には近付かない方がいいですよ」 自分と恢の視線が彼方に向く。彼女は満足そうに笑っていた。 「どういう事だ?」 「あまりしつこく彼女の側にいると、呪い殺されます」 恢の視線がこちらに向いた。自分は唇を噛み締めたまま下を向くだけ。
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