149人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
「彼方あれは――」
「言い訳は聞きたくない。貴方の声も聞きたくないわ」
自分が小さな声で話そうとしても、それを彼方が許さない。
どこまでも冷たい声。瞳には憎悪の色が混ざっている。
首を傾げて自分を見ている恢に気付いて、夕鶴は弱々しく笑う。
「嫌われてるんです、私」
「見りゃ分かる。原因は呪い殺すってやつだな」
よくお分かりで。ぽつりとそう呟いて、夕鶴はまた俯く。
対する彼方は殺気立っている。今ここで自分を殺してもおかしくないくらい。
「東上、話してくれ」
「彼方でいいです、鴉島井さん」
恢に話し掛けられた瞬間、さっきの雰囲気はどこに消えたのか。
にっこりと笑顔を作って恢を見る彼方。
ただ彼は気にする様子がない。それどころか、眉をしかめて彼女を見ている。
「……いいから話せ」
「分かりました」
勝ち誇った顔でこちらを見るのは、あれが完全に夕鶴のせいだと信じているから。
ここまで自分を恨んでいるのは、好きな人を取られた腹いせ。
夕鶴はそれを知っている。知っているが、彼方を恨む事はしない。
異端だと呼ばれるようになったのは中学からだ。
それも夕鶴が孤立する原因になった事件が起こるまで、自分は確かに普通の人だった。
「夕鶴は、自分に好意を寄せてくれていた人を呪い殺そうとしたんです」
彼方が話し出す。勝手に彼方の中で真実だと決めつけた話を。
その話を聞きながら、自分は頭の中で本当の真実を思い浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!