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「話は本当か?」
「ほとんどは。ただ、私は殺そうとした訳じゃない」
話を聞いた恢でも分かるはず。その青年が憑かれていたという事を。
だから自分は、その憑いた霊を祓おうとしただけ。
「嘘よ、だって彼はあの後死んだわ!好きな人に殺されそうになったからでしょう!?」
「違うわ。霊を完全に祓えなかったのよ。自分だけ死ぬなら宿し主も殺す。低級霊の考えそうな事よ」
今自分が浮かべている表情も、声も。酷く冷たいものだろう。
彼方は自分と話す事を諦めたのか、今度は彼に縋り付く。
「分かって下さい!彼女は人殺しです」
「悪いけど、俺が信じるのは姫だ」
恢がそう言うと、彼女は信じられないと目を見開く。
夕鶴も同じく。まさか自分を信じてもらえると思ってなかったから。
「俺は守り人だ。姫の言う事に従うし、違うと言うのならそれを信じる」
彼はどういうつもりだろう。巫女姫といっても、そう簡単に信じられないはずなのに。
胸が暖かくなる。今日初めて会ったばかりだが、彼は自分の味方でいてくれるから。
「それに、巫女姫はお前の命の恩人だ。礼もないのか?」
「……恩人?」
彼方から見たら、命の恩人は恢の方。何故夕鶴が恩人なのか。
そんな気持ちが彼女の表情に出ていたから、彼は深いため息をつく。
「俺はお前に興味ねぇ。姫の頼みがなければ見殺しにしてた。あくまで俺がやる事は、鬼を祓う事だ」
この青年は残酷だ。彼方が好意を寄せている事に気付いているのだろう。
それなのにそれを打ち砕く。一番酷いやり方で。
「先輩、それは……」
いくらなんでも酷すぎるのではないだろうか。
自分の非難にも顔色一つ変えないでこちらを見る。まるで彼方はここにいないというように。
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