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「仕方ねぇから送ってやる。来い」
そんな上から目線に言わなくても。夕鶴は苦笑してしまう。
だが彼女はまるで気にしていないらしく頬を染めて近寄っていく。
何故あれほど彼に惚れているのか。今日会ったばかりだというのに。
「あの、どうやって連れ帰ってもらえるんです?」
彼女の頭の中はピンク色だ。中学の時から、少ーし妄想が激しい子だったから。
今の表情は絶対に、お姫様抱っこを望んでいるはず。
「ぐだぐだ言うな。行くぞ」
俵を持ち上げるように彼女を担ぎ上げる恢。これには自分もびっくりだ。
「せ、先輩!そんな持ち方するんですか?」
「これが一番安全だろう」
何でもないというような彼に、二人とも何も言えなかった。
泣きそうな顔が遠くなっていくのを見て、可哀相にと心の中で合掌した。
「さて、叉玖。結界作らないとね」
襲われる心配はないだろうが、万が一という事もある。
それに、頻繁に使わないと強度が落ちる可能性だってあるわけで。
「浮遊霊達は少し居心地悪いかも。大丈夫?」
問い掛けに頷きが帰ってくる。彼らには悪いが少し我慢してもらう。
小さく言魂を紡ぐ。マンションの一部屋全てを、力が覆っていくイメージを持ちながら。
みるみる部屋の空気が清浄になっていく。言魂が全てを浄化しているのだ。
言魂を紡ぎ終わると、自分は大きく二回柏手を打つ。
部屋を結界が覆い、綻びがない事を確認してから夕鶴はベッドに倒れ込む。
今日は沢山の事があった。恢と出会い、眞智に鬼が憑いていると知り、喰われかけた彼方を助けて。
精神的にも肉体的にも疲れ果てた自分はそのまま深い眠りに落ちた。
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