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眞智は一人、暗い闇の中に立っていた。 足元には首から血を流して死んでいる少女が転がっている。 その少女の片腕を持ちながら、ただぼんやりと空中を眺めた。 やる事がないという訳ではない。ただやりたくないだけ。 『足りぬ、足りぬ。眞智、早く喰え』 曉が急かす。もう食べたくないのに、手が勝手に動く。 片腕にむしゃぶりつき、その血肉を喰らう。あぁ、美味しいと感じてしまう自分が憎い。 それは自分の中に宿っている鬼がいるから。しかしもう自分は人ではないのかと涙が出る。 分かってる。眞智は曉と同調した時の自分の姿を見た事があるから。 茶髪は赤く染まり、角と牙が生えて爪も伸びる。人外の証拠である赤い瞳が恐ろしい。 「……助けて」 小さな呟きは、一筋の涙とともに消えてなくなる。 助けて。誰でもいい、再び人として生きていられるのなら誰でも。 眞智の願いを嘲笑うかのように、自分の体は肉を喰い血を啜る。 鬼が自分の体を少しずつ、少しずつ支配していっているのだろう。 「……夕鶴」 『あの小娘を喰いたい。すぐに行動しようではないか』 体が跳ねた。夕鶴を食べる?この私が、あの子を、食べる? 「今日は嫌よ!お願い曉、止めましょう!」 『口答えするな。お前は素直に従えばいい』 体中に激痛が走る。痛い、痛い。でもそれよりも心が痛くて泣きそうになる。 夕鶴の元に行かなくては。行きたくないのに体が勝手に動く。 いつの間にか、もう完全に逆らえなくなっていたのだ。
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