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幸い、結界は即席ではない。自分が招き入れない限り、破られる事はないはず。 それなら恢が来るまでの時間稼ぎにはなるだろう。 そんな夕鶴を急かすように、扉が何回も叩かれて結界が揺れる。 破られないとは思うのだが、鬼と戦った事がないから不安だ。 完全に恐怖で震えてしまった時、痛々しい音がして叩く音が消えた。 「……夕鶴、俺だ」 不意に、扉から声が聞こえてきた。これは間違いなく、恢のもの。 恐怖心のせいで、夕鶴は冷静な判断が出来ていなかった。 恢が来たのにまだ警戒している叉玖。眞智がいたであろう玄関からの呼びかけ。 なにより、彼は夕鶴と呼ばない。ずっと姫と呼んでいた事に気付いていなくて。 叉玖が自分を叱り付けようとしている声すら届かない。 ずっと張り詰めていた緊張があの声によって消えた為だ。 『ミィ!』 毛を逆立てて危険を必死で知らせる叉玖を自分は見ていなかった。 ふらふらと玄関に向かって行く。早く恢の姿を見て安心したいから。 『キュウゥ!』 鍵を開ける。扉を開けたら結界が解けてしまうが気にしない。 「先輩!」 開け放した扉の先に居たのは、鬼の操り人形と化した眞智だった。 悲しそうな。それでいて狂喜を秘めた瞳と目が合い動きを止める。 固まった自分の横を何かが通り抜けて行く。それは今まで警戒していた叉玖だった。 「……叉、玖」 襲い掛かる叉玖だが、自分の霊力の後押しがないただのオサキ狐は鬼に敵わない。
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