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恢は走っていた。浮遊霊から聞いた情報が本当なら、急がなければ。 翼を使って飛ぶのもいいが、それでは遅い。風を使って駆けた方が数倍早く着く。 「くそ!」 油断した。まさかこんなに早く鬼が夕鶴を襲うなんて考えられなかった。 まだ堪えているだろうか。それでも、絶対に恐ろしい思いをしているだろう。 見えてきたマンションを見ながら自分はスピードを上げる。 階段を駆け上がり、夕鶴の部屋の前に立つ。 「姫、無事か!?」 大声を上げてみても、彼女からの返事は聞こえてこない。それが自分を不安にさせる。 「姫!」 一度大きく扉を叩いた時、恢はその部屋を覆っている結界に気付いた。 それは綻びだらけで、まるで破られた結界を無理矢理修復したようなもの。 「こんな綻びだらけな結界、姫は作らねぇだろうな」 即席の結界でもあれだけ綺麗だったのに。これは無理矢理作ろうとしない限り彼女には作れない。 それはつまり、もう結界が破られた可能性が高いという事で。 「ちくしょう!」 そう叫んだ自分の耳に聞こえてくる、鍵の開く独特の音。 一瞬夕鶴が開けたのかと思ったが、酷い綻びから入り込んだ浮遊霊のお陰だった。 「よくやった」 慌てて部屋に入るが、まるで人の気配はない。あの彼女独特の清浄な気配はどこにも。 リビングまで歩を進めた恢の視界に、ぐったりと横たわっているオサキ狐が入ってきた。 オサキ狐。この子は、夕鶴の守護獣ではなかったか。
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