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今更チャイムを鳴らすなんておかしい人だ。何がしたい。 首を傾げながらもチャイムは無視をして、玄関のドアを開ける。 「姫崎 夕鶴(ひめさき ゆづる)様ですね」 目の前にいた男の格好を見た夕鶴は、ついついまじまじと観察してしまう。 黒いスーツに黒いサングラス。高そうな整髪剤の匂いをさせたその男性は、映画によく出てきそうだ。 「私に何か用?人の遣わした浮遊霊を祓ったの、貴方ね」 夕鶴の睨みにもまるで反応せず、男性は名刺を差し出してくる。 その紙には、近藤という苗字と『龍嘉(りゅうか)家執事』とだけ書かれていた。 執事。絶対に執事には見えない。SPとかボディーガードの方がよっぽど似合う。 「で、龍嘉家の執事様が何の用?」 「主から、貴方を連れてくるようにとの命がありまして。貴方を龍嘉家の養子にさせていただきます」 その言葉を聞いた瞬間、今まで静かだった夕鶴の瞳には敵意が宿る。 確かに自分は十歳の時から施設育ちだ。だが、養子なんて面倒なものはお断り。 「悪いけど、お断りよ」 「嫌がるようなら力ずくで、です」 「……出来るの?」 くすり、と笑う。馬鹿にした笑い方だと自覚はある。 その瞬間、近藤が夕鶴に詰め寄って首筋に隠し持っていたナイフを突き付ける。 「すみません、これも仕事なので」 感情を一切排除してしまったかのような冷たい声。 多分、彼は躊躇う事なく自分の首にナイフを突き立てられるだろう。
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